アメリカ国防総省、NATO、IAEA等は劣化ウランにおける低線量の被曝による医学的危険性や疫学的リスクを積極的に認めてきておらず、その危険性を評価するのは科学的合理性ではなく政治的判断に基づくものであるかもしれないとの立場に立っている。
その判断は、核兵器保有国におけるウラン濃縮の際に生じる劣化ウランを効率的に利用することを考慮した経済的合理性に基づくものになるが、とくにオバマ政権のアメリカにおける、核兵器削減に伴う余剰ウランを利用する経済的合理性に基づく、原子力発電所の積極的推進を考慮した政治的コンセンサスを重ね合わせると、放射線医学においては科学的合理性が政治的判断に敗北しているのだが未だに一応の科学的合理性の衣を纏っている例として把握され直す可能性が存在している。
アメリカ政府による「戦争を早く終結させるために原爆を投下する決断を下した」との言説は、ジョセフ・ナイによれば「日本本土上陸をする際の米軍の損失が多大になることを考慮し、原爆を投下する決断を下した」といったある種の経済的合理性が背景に存在することを示唆するものであり、経済的合理性を達成するためには非人道的方法を採択しても構わないといったアメリカ国内においては許容されることができない基準を外国に対し適用していた国内と国外の情報格差を利用したダブル・スタンダードの例として把握され直すことができるかもしれない。そしてアメリカ政府が各国に対し民主主義や人権の保障を長期に亘り擁護し続けている長所と比較しながら公平に論じる必要があるのだが、そのダブル・スタンダードと外交政策に関し短期的視点に偏ることにおいて、チュニジアやエジプトを挙げるまでもなくアフガニスタンやパキスタンを含めた国際社会がアメリカ政府に対しストレスを感じている現状が挙げられ、それはABCやCNNで報道されることは少なく、一般のアメリカ人は政府や国内のメディアに対して違和感を感じている現状になり、それゆえアメリカの学生は海外に旅に出て現実を把握しているといったことが説明されるかもしれない。同じことは日本にも当てはまる。
一方日本の行政に携わっている官庁の役職者には東大出身が多いが、彼らは世間的に東大出身の肩書きが好まれていないことを十分認識しており(世間的に好まれていない点は早稲田でも同様だが)、その弱い立場を認識しているがゆえに同窓のネットワークを密にすると同時に海外の有識者とのネットワークを構築することによって彼らの見識の基盤を強化していると把握する視点を許容することについて問題は少ないのかもしれない。つまりアメリカ等の海外の担当部局との交渉においてささいな問題については議論が成立するかもしれないが、外交や防衛といった大きな問題について内外から始終プレッシャーを与えられながら交渉することが難しいと思われるのは、その根底において省庁の内部や国民の視点における個々の行政官僚の支持基盤といったものが脆弱なものであるがゆえに、国内に対し海外の見解を伝える立場として立ち回ることでしか自らの立場を保持することができないといった弱さがあるからではなかろうかと考えるときがあった。それゆえ外部被曝や内部被曝の危険性に関してアメリカ国防総省やIAEAの担当者の見解をできる限り尊重した外交および内政を行うことを慣例とし、過小評価されたリスクを採用したのは、結果として科学的合理性の下での議論でなく核兵器保有国が自国の政策を正当化するために用いた政治的判断に対するコンセンサスを核兵器保有国でない日本の担当者が欺瞞と知りながらも科学的合理性の下での議論として受け容れたことによるものであり、日本に居住する人々とくに福島の人々の安全性を担保する行政がうまく機能しなかったといった状況を生み出すことになったのは、その欺瞞が1つ1つ明らかにされつつある現状によって説明されることが可能であるかもしれない。
そして本題に戻ることにする。行政担当者が低線量の外部被曝および内部被曝を安全であると言い続ける理由は、アメリカ国防総省、NATO、IAEA等による、科学的合理性と異なる政治的コンセンサスを科学的見解として共有することを維持することが、海外とのネットワークを維持する際に先方からのプレッシャーを受けることを回避し、日々の仕事を進める上で妥当であるかもしれないとの担当者による判断が作用しているからであろう。したがって安全を語りながらも本質において日本国民の安全を科学的に担保するといった視点が欠落しており、さらにアメリカ同様国内と海外の情報格差を利用しているがゆえに、現在新たな社会問題が生じていることに繋がっているのだろう。
他方、放影研、放医研、放射線医学の専門家が低線量の外部被曝および内部被曝を安全であると言い続ける理由は、低線量の外部被曝および内部被曝を安全であると言い続ける政治的コンセンサスを受け容れた者が専門家として地位を確立することができる現状が背景にあり、それは海外においても類似した例を見受けることができるだろう。つまり原水爆が非人道的な兵器であることや劣化ウランの危険性を積極的に認める姿勢をアカデミズムの世界から排除する枠組みを肯定しなければアカデミズムの世界で生き残れないといった不自由さを常に抱えながら研究に従事する世界の難しさを眺めることができるかもしれないが、それゆえに福島の事故に直面した地域住民がリスクを意図的に過小評価されていたことを肯定するための科学的および道義的正当な理由が存在するとはならないだろう。
一歩踏み込んで話を続けるならば、私は、日本の行政の担当者や放射線医学の専門家が付き合ったほうがよいアメリカの行政の担当者や放射線医学の専門家が間違っているといったミスマッチが背景に存在しているからこの問題は生じているかもしれないと考えるときがあり、また同時に彼らアメリカの行政の担当者や放射線医学の専門家が付き合った方がよい日本の行政の担当者や放射線医学の専門家が間違っているかもしれないといったミスマッチも背景に存在していることも考慮に加えたほうが妥当かもしれないが、アメリカに限らず世界は多様であり、世界の人々の共通認識といったものがあり、ミスマッチが解消されているならば、上記の安全ドグマの押しつけとは異なったものになるだろうと考えることがある。
しかし一方でこれは行政の担当者や放射線医学の専門家といった確信犯との対峙であるといった見方に立つことがある。どれほど科学的に妥当な結論を見出そうとも、政治的判断に対するコンセンサスと異なった結果であれば、それがメインストリームに登場する機会は少ないであろうといった現実が長らく続いている。私は個人的には国民投票を通じて是か非かを決めていくことが妥当であろうと考えるときがあるが、その投票のタイミングに関し既得権益の構造が一番不利にならない時期が選ばれる傾向にあることを考慮すると、個々の国民が既得権益の構造に対し積極的に国民投票の実施を働きかけ続け、変革のメスを入れるぐらいのことをやらないことには何も始まらないだろうと考えることがある。
前回同様これが全てであるとは言及しないが、アメリカのWikipediaの「劣化ウラン」の一部を訳すことにより上記の知見をサポートすることにする。URLは以下に示されるとおりになる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Depleted_uranium_ammunition
劣化ウラン
4 健康上の考慮事項
弱い放射性を有していることに加え、ウランが有毒な金属であるため、腎臓、脳、肝臓、そして多数の他のシステムにおける正常な機能はウランの被曝によって影響を受けている可能性がある[7]。劣化ウランはヒ素や水銀のような他の重金属より毒性が低いものである。それは弱い放射性を有しているが、その長い半減期のため放射性を有したままである。有害物質と疾病登録のための機関は「ウランから被曝するには、あなたがたがそれを食べ、飲み、呼吸し、皮膚の表面で接触することによる必要がある」と述べている。
しかしギリシャのアッティキにある原子力技術放射線防護研究所は「劣化ウラン弾の衝撃と燃焼の間生み出されるエアロゾルは、衝撃を与えられた敷地周辺の広い地域を潜在的に汚染する可能性があり、民間人や軍人によって吸入される可能性がある」と指摘している[9]。アメリカ国防総省は、人間におけるいかなるタイプの癌も天然ウランや劣化ウランのいずれかによる被曝の結果として見受けられないと主張している[66]。
早くも1997年にイギリスの医師はイギリスのMoD(国防省)に、劣化ウランは肺、リンパ、脳における癌の発症のリスクを増加させると警告し、一連の安全上の注意を勧告している[67]。医師の助言をまとめたレポートによると、「不溶性の二酸化ウランの粉塵を吸入すると、もし存在しているならば、ゆっくりとした除去のためそれは肺に蓄積するだろう、そして化学的毒性は低いけれども、癌を導く肺における局所的な放射線による損傷が存在するかもしれないだろう」といったことになる。レポートは、「全ての民間人や軍人がウランの粉塵の吸入が長期のリスクをもたらすものであることに気付くべきであり、[粉塵は]肺、リンパ、脳における癌の発症のリスクを増加させることが示されている」と警告している[67]。
培養された細胞や実験におけるげっ歯類を用いた研究は、慢性的な被曝からの白血病、遺伝、生殖、神経系への影響の可能性を示し続けている[5]。さらに2004年初頭にイギリス年金控訴審は、1991年の湾岸戦争における戦闘による先天障害の主張の原因を劣化ウラン中毒に帰している[68][69]。また2005年の疫学におけるレビューは、「全体として人間における疫学上の証拠は劣化ウランに被曝した人の子孫における出生時における障害のリスクにおける増加と一致している」と結論づけている[10]。
潜在的な健康への悪影響とその環境中への放出のため焼夷弾の使用は物議を醸している[70][71][72][73][74][75]。その残留放射能に加え、U238は、その化合物が実験室における研究から哺乳類に対して有害であると知られている重金属である。
金属ウランはゆっくりと腐食する傾向があり、小さな断片は空気中室温で自然発火する[26]。劣化ウラン弾が装甲を貫き、燃焼するとき、それらは、吸入され、傷を汚染する可能性があり、劣化ウラン酸化物を生じる。また弾や装甲の破片が体内に取り込まれる可能性がある。
4.1 化学毒性
劣化ウランの化学毒性はその放射線の危険より試験官の中で約100倍大きいものになる[76]。劣化ウランの健康への影響は例えば被曝の程度や内部か外部かといった要因によって決定される。ウランの内在化が発生する主要な3つの経路が存在しており、それは吸入、経口摂取、取り込まれた断片もしくは榴散弾による汚染になる。例えば相(粒子状または気体)、酸化状態(金属またはセラミック)、ウランやその化合物の可溶性といった特性は、それらの吸収、分布、移動、除去、結果としての毒性に影響している。例えば金属ウランは六価ウラン(VI)や三酸化ウランのようなウラニル化合物と比較して相対的に毒性が低いものになる[77][78]。
ウランは微細に分割されたときに自然発火する[26]。それは不溶性のウラン(IV)や可溶性のウラン(VI)塩を生じる空気や水の影響下において腐食していくだろう。可溶性ウラン塩は有毒である。ウランはゆっくりといくつかの器官、例えば肝臓、脾臓、腎臓に蓄積していく。世界保健機関(WHO)は、体重1kgあたり0.5μgもしくは70kgの成人に対して35μgといった一般公衆に対する可溶性のウラン塩の日々の許容摂取量を定めている。
実験に関する動物における疫学上の研究や毒性試験はウラン塩が発癌性や白血病誘発性をもち[83]、免疫毒性[79]、肢体に不自由を生じさせる性質[80][81]、神経毒性[82]を有するものとして示している。疫学者による2005年のレポートは、「人間における疫学上の証拠は劣化ウランに被曝した人の子孫における出生時における障害のリスクにおける増加と一致している」と結論づけている[10]。
劣化ウランのエアロゾルの被曝における初期の研究は、ウラン燃焼生成物の粒子はすぐに大気中において沈着し[84]、これゆえ対象地域から数km以上離れた人口に影響を与える可能性はなく[85]、もし吸入されるならそのような粒子は長期において肺の中で溶解しないままであるかもしれず、これゆえ尿中に検出される可能性があることを想定していた[86]。燃焼したウランの飛沫は激しく、それらの元の質量の約半分のウランからなるガス状の蒸気を生じさせる[87]。ウラン酸化物におけるウラニルイオンの汚染は劣化ウラン弾の火災における残留物の中において検出されている[88][89]。
4.2 放射線の危険性
その同位体により放射されるα粒子はわずか数cmしか移動せず、1枚の紙によって止めることが可能であるため、純粋な劣化ウランからの放射線による外部被曝は低い関心を集めるのみだった。また劣化ウランに残る低濃度のウラン235は少量の低エネルギーのγ線のみを放射していた。
しかし、隣接する組織が繰り返し照射されるかもしれないので、組織に留まった粒子からの内部α線被曝はさらに深刻な問題になる。
世界保険機関(WHO)によると、それからの放射線量は同量の精製された天然ウランの約60%になるだろう。天然ウランの約90μgは概して水、食料、空気の正常な摂取の結果として人体の中に存在している。この大半は骨格に見受けられ、残りはさまざまな器官や組織に見受けられる。
しかし一ヶ月かそこらの内に劣化ウランは、ウラン238からのα粒子とほとんど同じ割合でβ粒子を放射するある量のトリウム234とプロトアクチニウム234を生じる。β粒子は各々のα粒子に対して放射される(ラジウムのシリーズを参照せよ)。
その長い半減期(44億6000万年)同様、さらに多くの放射性同位体の除去により、純粋な劣化ウランにおける放射線の危険性は自然に発生するウランより(60%)低いものになる。劣化ウランはその同位体組成において天然ウランと異なるが、その生化学は全ての実用的な目的に対し同じである。さらなる詳細においては、環境中のアクチニドを参照せよ。
4.3 湾岸戦争症候群と兵士の不満
免疫系疾患と慢性的な痛み、疲労、記憶喪失を含む他の幅広い症状の増加する割合が1991年の湾岸戦争における戦闘の兵役経験者における4分の1以上において報告されている[91]。劣化ウランは湾岸戦争において初めて大規模に30mm以下の口径の機関銃の弾において用いられたので、湾岸戦争の兵役経験者の病気に関する研究諮問委員会によって、劣化ウラン弾からの燃焼生成物は潜在的な原因の1つとして考えられている。ペルシャ湾、ボスニアやコソボにおける紛争の兵役経験者において彼らの遺伝子における通常のレベルの14倍までの染色体異常が見受けられていた[92][93]。血清可溶性の遺伝毒性をもつ肢体に不自由を生じさせる性質は先天性の障害を生じさせ、白血球において免疫システムの損傷を引き起こしている[94]。
人間における疫学上の証拠は劣化ウランに被曝した人の子孫における出生時における障害のリスクにおける増加と一致している[10]。1991年2月湾岸戦争の戦闘における15,000人の兵役経験者と15,000人のコントロール群の兵役経験者における2001年の研究は、湾岸戦争の兵役経験者において先天的障害を有する子供をもつ確率が1.8倍(父)から2.8倍(母)以上になることを見出した[95]。2年後の子供の医療記録における検査の後、先天的障害の割合が20%以上まで増加していた。
「Kang博士は、男性の湾岸戦争の兵役経験者は湾岸戦争の兵役を経験していない者の2倍先天的障害をもつ子供を有することを報告していることを見出した。さらに女性の湾岸戦争の兵役経験者は湾岸戦争の兵役を経験していない者のほとんど3倍以上先天的障害をもつ子供を有する可能性があった。数字は医療記録の検証とともに若干変更されている。しかしKang博士と彼の同僚は、動員された男性の兵役経験者の子供における先天的障害のリスクはそれでも動員されていない兵役経験者の約2.2倍になると結論づけた[96]。」
2004年初頭、イギリスの年金控訴審は1991年2月の湾岸戦争の戦闘の兵役経験者からの先天的障害の主張の原因を劣化ウラン中毒に帰した[97][98]。劣化ウラン弾が用いられる戦争で闘ったイギリスの兵士の子供は、父親から伝えられる遺伝的疾患、例えば先天的に肢体が不自由な性質、一般的には「先天的障害」と呼ばれているものを被るさらに大きなリスクを抱えている。イギリス軍の研究において、「全体的に男性によって報告された妊娠中における先天的に肢体が不自由になることのリスクは湾岸戦争の兵役を経験していない者に比べて、湾岸戦争の兵役経験者において50%高いものになっていた[99]。」
アメリカ陸軍は、劣化ウランと1993年以来劣化ウランの代わりにアメリカ海軍が用いているタングステンのような他の弾丸兵器の物質の潜在的リスクに対する継続的研究を委託した。アメリカ軍放射線生物学研究所による研究は、劣化ウランやウランのいずれかによる普通の被曝は有意な毒性学的恐れを示していると結論づけている[100]。
さらに高いリスクに直面しているかもしれない兵役経験者のある特定の一部のグループは、榴散弾の傷から劣化ウランの破片を体内に有している人々を含んでいる。軍放射線生物学研究所により実験室において行われたラットの研究は、6ヶ月の研究期間の後、劣化ウランの破片を体内に有していた砂漠の嵐作戦における兵役経験者の尿における平均レベルと比較し、注入されたペレットから生じる劣化ウランで扱われたラットは、コントロール群に関して体重を減少させる有意な傾向を明らかにしていることを示していた[101]。
ウランのかなりの量はかれらの脳や中枢神経系に蓄積しており、外部の刺激に対する海馬の神経活動における有意な減少を示していた。研究の結論は、慢性的なウラン中毒から生じる脳の損傷は以前に考えられていたより低線量においてありうることであることを示している。1997年に行われたコンピューターベースの認知神経科学的なテストからの結果は、尿におけるウランと「パフォーマンスの効率や正確さを評価する自動テストにおける問題のあるパフォーマンス」との関係を示していた[102]。
2003年に劣化ウランにおける王立協会のワーキンググループの議長であるフェローのBrian Spratt教授は、「誰が最初のモニタリングと除染をするのかといった疑問は科学的疑問というよりは政治的なものあり、政治提携は、劣化ウランが潜在的に危険であることを認識し、どこでどの程度劣化ウランが展開されているかについてオープンにすることによってそれに取り組むことに迫る必要がある」と述べていた[37]。
4.4 イラクの人口
2001年以来、イラク南部のバスラの病院において医療スタッフは、湾岸戦争に続く10年間に生まれた乳児において小児白血病や遺伝的に肢体が不自由になる状況の発症における急激な増加を報告していた。イラク人の医師はこれらの肢体が遺伝的に不自由になる状況の原因を劣化ウランの潜在的長期的影響、そしていくつかの新聞によって繰り返されている意見に帰していた[74][103][104][105]。2004年にイラクは全ての国の白血病において最も高い死亡率を有していた[106]。イラク人の医師によって求められているように[107]、ウラン兵器を禁止する国際連合(ICBUW)はバスラの地域における疫学的研究を支持することを求めているが、何の査読研究もまだバスラで行われていない。
医学的調査であり、2010年7月に公表された「2005年から2009年までのファルージャにおける癌、乳児死亡率、出生性比」は、癌と先天的障害における増加が驚くほど高く、2009年から2010年までの乳児死亡率が13.6%に達していることを示している。そのグループは、2004年における実際の戦争や被曝の後の5年間における急激な増加を、バルカン戦争の後展開されたイタリアの平和維持軍のリンパ腫[108]やチェルノブイリのフォールアウトによるスウェーデンのある地域における発癌リスクの増加と比較している。遺伝的ストレスの原因となる発癌作用を引き起こす原因と時期について、そのグループは別のレポートの中で述べるだろう[109]。
4.5 1999年におけるNATOのユーゴスラビア爆撃
2001年にKosovska Mitrovicaにあるセルビア人経営の病院の医師は、悪性疾患を被る患者の数が1998年以来200%増加したと述べている[110]。同じ年に世界保健機関(WHO)はコソボからのデータは結論のでないものであり、さらなる研究が求められると報告した[111]。
ボスニアヘルツェゴビナにおける国連環境計画(UNEP)による2003年の研究は、低レベルの汚染が劣化ウランの貫通衝撃点における飲料水と大気中の粒子において見受けられると述べていた。そのレベルは警告のための原因にならないものとして述べられていた。しかしUNEPの劣化ウランプロジェクトの議長であるPekka Haavistoは、「この研究の知見は紛争後の状況において適切な除染と市民防護の措置の意義を再度強調するものである」と述べていた[112]。
4.6 影響がほとんどないことを示す研究
2005年とそれ以前の研究は、劣化ウラン弾は測定できる決定的な健康への影響を有していないと結論づけていた。
1999年の文献であるランドコーポレーションによって行われたレビューは、「吸入されたか、経口摂取されたか否か、もしくは非常に高い線量でさえ、癌や劣化ウランや天然ウランにおける被曝から受ける放射線に関連した全ての他の健康上の悪影響に関し文献の中に記録された証拠はない」[113]と結論づけ、劣化ウランの危険性を評価することにおいて責任を負っているアメリカ国防総省次官によって著されたランドレポートは、議論を科学に基づくものというより政治的なものであると考えていた[114]。
2001年における腫瘍学の研究は、「現在の科学におけるコンセンサスは、劣化ウラン弾が展開された場所における人間に対する劣化ウランによる被曝は癌を誘発させる可能性が非常に少ない」と結論づけていた[115]。元NATO事務総長であるRobertson卿は2001年に、「存在している医学的コンセンサスは明確である。劣化ウランからの危険性は非常に限定的であり、非常に特定の状況に対して限定的である。」[116]と述べている。
オーストラリアの防衛省による2002年の研究は、「ウラン処理産業においてウランにより被曝した労働者における死亡率や罹患率において確立された増加は存在していない、そして湾岸戦争の兵役経験者における研究は、傷に関連した戦闘により劣化ウランの破片を体内に有する人々において、尿中の増加したウランレベルを検出することは可能であるが、追跡調査の10年後において劣化ウランに関連した腎臓における毒性や他の健康上の悪影響を検出することは不可能だった」[117]と結論づけた。Pier Roberto Danesi、当時の国際原子力機関(IAEA)のSeibersdorf研究所の所長は2002年に、「現在劣化ウランは健康上の脅威としてみなされていないといったコンセンサスが存在している」と述べている[118]。
IAEAは2003年に、「他の重金属と同じように劣化ウランは潜在的に有毒であるものの、劣化ウランと人間における癌や他の有意な健康上もしくは環境上の影響における増加との証明された関連は存在していない。十分な量において、もし劣化ウランが経口摂取され、吸入されるならば、その化学的有毒性のため、それは有害である可能性がある。その高い濃度は腎臓の損傷の原因となる可能性がある。」と報告していた。IAEAは、劣化ウランは潜在的に発癌性を有する一方、それが人間に対し発癌性を有している証拠は存在していないと結論づけた[119]。
Sandia国立研究所のAl Marshallによる2005年の研究は、1991年の湾岸戦争の間、劣化ウランによる偶然の被曝と関連した潜在的な健康への影響を分析するために数学的モデルを用いていた。Marshallの研究は、劣化ウランからの発癌リスクのレポートは兵役経験者の医学統計によって支持されていないと結論づけたが、Marshallは生殖における健康への影響を考慮していなかった[120]。
4.7 アフガン戦争の結果としての汚染
カナダのウラン医学研究センターは、5ng/L以下というイギリス人口における基準となる濃度よりはるかに高い、劣化ウランの80〜400ng/Lという濃度を示したジャララバードにおける爆撃を受けた民間人の地域からの尿のサンプルを手に入れた。
4.8 2006年のレバノン戦争の結果としての汚染
土壌と水のサンプルは2006年のレバノン戦争の結果においてKhiamから採取された。15のサンプルのうち、2つが高レベルの劣化ウランを含み、4つのサンプルが低濃縮のウランを含んでいた[122]。さらにベイルートからの15の尿のサンプルが検証された。2つは低濃縮のウランを含んでいることが検出され、1つは高レベルの劣化ウランを含んでいることが検出された[123]。
4.9 軍事行動の結果としての大気汚染
非常に低レベルの劣化ウラン汚染と一致する増加した放射線レベルはイギリスのいくつかのモニタリングサイトにおいてイギリス核兵器公社によって採取された大気中のサンプルの中に検出されていた。これらの増加した記録は、アフガニスタンにおけるアナコンダ作戦や第二次湾岸戦争の開始時における「衝撃と畏怖の爆撃作戦」と一致しているように思われる[31][124]。
4.10 他の汚染事例
1992年10月4日にエル・アルボーイング747-F貨物航空機の1862便はアムステルダムのアパートの建物に墜落した。地元住民と救助隊員は、墜落とその後の火災の間に有害物質の放出したことに起因しているさまざまな予期せぬ健康問題に不満を訴えていた。当局は、事故によって影響を受けていると信じられているこれらの人々において2000年における疫学的研究を行った。研究は、劣化ウラン(航空機のエレベーターにおいて均衡を取る重みとして用いられている)と報告されたいかなる健康上の不満とも関連性があると示す証拠が存在しないと結論づけた。
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